ポルトガルの窓から日本が見える No.7

2016.12.13 Tuesday

0

    ポルトガルの窓から日本が見える

     

    文:吉田千津子 写真:奥村森

     

     

     

    Hitoshi & Mutsuko Takemoto 武本夫妻

     

     

     

    旅は道づれ世は情け、されど君子危うきに近よらず

     

    先日、アルファマの「泥棒市」を訪れた際、通りがかった店で「土曜日の夜、ここでファドを聞かせるから5時においで」と言われたのを思い出す、そう、今日は土曜日。春子は、朝から興奮気味でファドの話題に終始。

     

    一方、私は生来の心配性に加え、ブラジルやアメリカでの23年間に渡る海外生活の教訓から「あの地区は夜になると街灯もなく真っ暗で人気もないので危険ではないか。昼間は、にこやかなあの人達が夜になると一転、怖い人に変身するのでは」とあれこれ考え臆病になり気が進まない。

     

    そんな私の性格のお蔭で、これまで無事に過ごせてこられたと自負している。最近は、無防備に渡航して事件に巻き込まれる日本人が急増している。奥村さんも海外生活経験者だけあって「行くのは止めよう」と言ったが、春子は「大丈夫ですよ、あのひと達はいい人ですよ」と信じきって疑わない。春子は、まだ未練があるらしくブツブツと文句をいったが万が一を考え、私たちの意見を押し通して取りやめることになった。「君子危うきに近寄らず」だ。

     

    今日、土曜日はセトゥーバル在住の日本人画家・武本比登志さんを取材に訪れることになった。セトゥーバルは、リスボアから南東へ約50キロ離れた港町である。昨日借りたばかりのルノー19に3人で意気揚々と乗り込んだのだが、近ごろオートマティック車しか運転していない奥村さん、ギッコン、バッタン、ガックンとギアチェンジの度にムチウチ症になりそうだ。

     

    私たちが泊まっているペンションから目と鼻の先にあるプラッサ・エスパニョーラまで悪戦苦闘の末たどりつく。エスパニョーラ広場は、ロータリーになっていて放射線状に道が分かれている。しかし、私たちが目指すセトゥーバルはおろか、方向を示す標識すら見当たらない。慌てた3人、「あっちだ、こっちだ」とそれぞれが言っているうちに、後方には車の列、「ビービー」とけたたましくクラクションを鳴らす音。

     

    奥村さんはアタフタするし、私はイライラ、あっという間にロータリーを2周してしまう。何人かに道を尋ね、やっとのことでセトゥーバルの方向を確認。リスボアの道路は、石畳で狭いぐにゃぐにゃ道や一方通行が多い。その上、やたらと不法駐車が目立つ。ダブル、トリプル駐車は朝飯前。

     

    ポルトガル人の運転は、さすがラテン系、ブラジル人と同様、車に乗り込むと人格が変わりFIレーサーよろしく滅多やたらにスピードを出す。普段のオットリとして温厚なポルトガル人からは想像できない。その人格の変貌は、子供の頃ウォルト・ディズニーのアニメで見たグーフィーを思い出す。

     

    話が脱線してしまったが、その後のドライブは順調で、1時間程で海の見える小高い丘にある武本さんのアパートに無事到着した。通りがかりに買い物袋をさげたおばあちゃんに「このアパートのどの棟に日本人が住んでいるか知りませんか」と尋ねると、「13番の3階だよ」と教えてくれた。武本さんは、このあたりで良く知られているようだ。

     

    武本夫婦は、笑顔で私たちを迎えてくれた。彼らの住むアパートは余り大きくはないが、新しく清潔で気持ちのよい住みやすそうなアパートである。ベランダや台所から海が見渡せるのも素晴らしい。

     

    「向かいに見えるのがトロイア半島だよ」と武本さんは指さす。夏は海水浴場となるリゾート地だ。武本夫婦は、ニューヨーク、中南米と旅して回ったすえ、ポルトガルに住むまではスウェーデンにも在住していた。画家といえばパリと誰でも考えるのだが、武本さんは、そんな俗っぽい人ではない。「少年のころ楽しく描いた絵をもう一度描きたい、ポルトガルには古きよき日本が今も残っている、それが私のモチーフ」と制作を続ける純粋な画家だ。

     

    夫人でエッセイストの睦子さんが、私たち3人に自家製のカレーライス、そして武本さんお気に入りのポルトガルワインをご馳走してくれた。ポルトガルに来てから毎日、塩辛い料理を食べていた私たちにとって、久しぶりのご飯は感激、ポルトガルワイン談議に花が咲いた。 

    コメント
    コメントする