ポルトガルの窓から日本が見える No.37

2016.12.20 Tuesday

0

    ポルトガルの窓から日本が見える

     

    文:吉田千津子 写真:奥村森

     

     

    Dog 犬

     

     

    春子とエボラのお喋り犬

     

    ポウザーダに帰ってみたら、春子が原稿を仕上げられずもたもたしていた。奥村さんは、自分で取ってきた仕事なので相当苛立っている。春子の文章は原稿を書く以前の問題で、国語の使い方が中学生でも、こんな文章は書かないだろうと思われるほど幼稚で誤字脱字が多い。

     

    辛抱強くて優しい奥村さんは、それでも何とか春子に書かせて自信をつけさせようとアドバイスに努める。しかし、親の気持ち子知らずというべきか、奥村さんが噛み砕くように丁寧に話せば話すほど、春子は増長して「これが私の文章です」とコピーライター風を吹かして口答えするばかりで、反省のいろはまったく感じられない。

     

    奥村さんは旅行中、彼女のプライドを傷つけないようにと婉曲的な表現で努力をしてきた。現代っ子の春子は、われ関せずのマイペース、人の意見を聞こうなぞと言う謙虚な気もちなど持ち合わせていないのだ。奥村さんは、今日まで良く我慢をしたものだと私も思う。

     

    原稿がのびにのびて、とうとう帰国間際になっても出来上がらない。ライター能力のない彼女を連れてきた私たちにも責任はあるが。しかし、この口答えのなかに「日本に帰ったらワープロも使えるし、資料もあるので書くことが出来る」という言い訳があった。それを聞いたとき洒落にもならないが「あ〜あ、春子は本当のコビーをするライターなんだ」と実感した。お先真っ暗、帰国してからが思いやられる。

     

    老人養護施設での感動も春子の態度でぶち壊しだ。暗い気もちになって外に出ると、ポウザーダ前に、顔だけがポヤポヤと荒毛になった茶色の犬が車の往来をものともせず寝そべっている。ハンサムで可愛い犬である。人が通ってもベターと寝そべって起きようとしない、なかなかの大物だ。犬猫好きの奥村さんは、ポルトガルに来てからやたらと撮りまくっていた。ポルトガル犬シリーズが出来るほどノラ犬、飼い犬かまわずカメラに収めている。

     

    私も輪をかけて犬猫好きなので、見つけるとすぐに奥村さんに撮影を命じてきた。しかし、この犬はいつもの調子と違ってカメラを向けると、お腹を出してひっくり返ってしまうのである。何度撮ってもひっくり返るので、諦めた奥村さんと私は10月5日通りの方へ歩き始めた。すると、その犬は急に立ち上がり、ドンドン私たちの後を飼い犬ぜんとしてトコトコついて来るではないか。10月5日通りの土産物屋を通り抜け教会の広場までやって来ると、やっと犬は私たちの前から去っていった。

     

    次の日も同様に寝そべっている。私たちが歩き出すとスクッと立ち上がり、後ろからついてくる。今度は何かを訴えるように「ウォンウォンウォン」と口をモゴモゴと動かし、吠えながら私たちの気を引こうとする。「ポルトガルの犬はポルトガル人に似てお喋り好きだな〜」と奥村さん。そんな冗談も出ないほど深刻な事態となった。

     

    昨日と違って何時までたってもついて来るのだ。さすがにうっとうしくなった奥村さんは「ポルトガル語であっちに行けってどう言うんだ」と私に聞く。「ヴァイ ラ」よ。「そうかヴァイ ラか」、奥村さんは大声で「ヴァイ ラ」と叫んだ。その途端、犬はピタッと止まりついてこなくなった。

    コメント
    コメントする