No.18 Evora

2016.12.18 Sunday 16:50
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    ポルトガルの窓から日本が見える

     

    筆者の吉田千津子、カメラマンの奥村森、コピーライターの春子、

    3人でポルトガル42日間の旅、ポルトガルを通して日本を考察する

     

    文:吉田千津子 写真:奥村森

     

     

    神殿と老人養護施設(ラール)

     

    Retired people 老人養護施設の入居者

    Retired people 老人養護施設の入居者

     

    アレンテージョ地方に来てから快晴の日が続づく。歴史の街、エボラもポルトガル晴れ。昨日から泊まっている「ポウザーダ・ドス・ロイオス」は、街中にあるので便利だ。古い城跡に修道院が建てられたのが15世紀のこと、そして1965年にポウザーダとして改装されたのがドス・ロイオスの歴史だ。

     

    隣接した16世紀に建てられたという修道院会議堂は、レストランとして生まれ変わっている。ポウザーダ前の広場には、巨大な大理石で造られたコリント様式の柱が14本もそびえたち、さながらギリシャ・オリンポスの丘を彷彿とさせる。これが紀元2世紀にローマ人によって建てられた「ディアナの神殿」である。円柱の土台と柱頭部分にはヴィラ・ヴィソーザ産の大理石が使われ、抜けるような青空に向かって真っ白なエンタシスが突き抜けるように伸びる様は、素晴らしいコントラストで映え雄大そのものだ。

     

    春子の原稿は未だ出来上がらず、今日もポウザーダで執筆するために居残ることになった。私と奥村さんは、かねてからの念願であったポルトガルの老人養護施設の取材に行くことにする。観光局に尋ねても老人養護施設は観光地ではないので「郊外にあると聞いたことはあるんですが」と何とも頼りない。

     

    やむをえず、ありそうな地域にめぼしを付けて車を走らせ道を尋ねながら探すことにした。たどり着いた施設は、ミゼルコルニア教会所属の「ラール・ラマリョ・バラオーナ」であった。外見は城のような形をしている。余りに広いので入口の見当もつかないほどだ。ホームでイルマ(シスター)レジーナ・ネーヴェスに取材許可をとる。

     

    昼時だったので、食事風景から撮影することになった。昼食を知らせる鐘が「カランカラーン」と鳴らされると、老人たちが一斉に食堂に集まってくる。そして気に入った仲間と食卓を囲み、とても明るく楽しそうだ。食堂は300坪はあろうか、150人もの人が一挙に食事ができるのだから大企業の社員食堂並みの規模である。

     

    奥村さんはチョコチョコとテーブルからテーブルへと撮りまわる。彼らは写真を撮られた経験も少ないと見え、興奮気味にポーズをとる。おばあちゃんの一人は、奥村さんを写真屋さんと勘違いして「いくらかね」とサイフを出して払おうとする。「私を撮って、撮って」と奥村さんは大モテ、撮らなくても良いものまで老人たちを喜ばすためのサービスに努めている。

     

    今日のメニューは、スープ、豆、じゃがいも、魚のフライ、それにサラダとメロンがデザートのフルコースである。ここは自分で動くことが出来る元気な人のための食堂だが、この施設では健康を害している人のために小さな食堂を男女別に用意している。

     

     

    Nun & retired man シスターと入居者

    Nun & retired man シスターと入居者

     

    ここにいる老人たちのほとんどは農業や羊飼いに従事して来た人たちで、低所得者や文盲の人が多い。

    低所得者は何処にでも居るが、文盲の傾向は田舎に行けば行くほど顕著になる。というのも学校から離れた所に住んでいると、バスなどの交通機関もないので通うことが出来ずじまいになってしまうからだ。

     

    施設の規則は、日本と違って厳しくなく自由だ。外出する者、散歩する者、椅子に座って話す人、民芸品をコツコツ作る人、バラの手入をする人など、それぞれの個性と行動の自由を尊重したシステムになっている。

     

    病室を設けても、誰一人ベッドで一日中過ごす者はいないという。必ず日中は仲間と語らいながら、日向ぼっこぐらいはする。「自分のことば、自分でする」これこそが彼らのモットーであり、生きがいなのだ。「甘えた依頼心を持つようになったら、死んでしまったのと同じ」とある老人は語る。「ポルトガルは成熟した社会だな」と感心させられる。

      

    この養護施設は、5人のシスターと50人の従業員、その他、在宅介護の数多くのボランティア従業員が構成要員となっている。在宅介護は、毎日の食事の運搬と洗濯を土、日曜日を除いてサービスしている。お風呂に入れない人には、施設で入浴させるために車で送迎するという徹底したシステムが確立している。

     

    ポルトガルの養護施設は教会が経営しているところが多い。従業員の給料、入居者の下着、シャツ、セーターなどの衣料や眼鏡までも教会が負担してくれる。勿論、ここに入る人は入会金もなく、一切無料であることは言うまでもない。


    医療面でも、医者1人と4人の看護婦が常駐しているから安心だ。この建物は、イグナシア・フェルナンデス・ラマーリョ・バラオーナというとてつもなく長い名前の大金持ちが、イタリア人建築家に造らせ、彼の使用人の老後を看取るために建てられたものである。

     

    これが後の養護施設の基礎となって集会所、チャペル、食堂、バー、大きな中庭、陽当たりの良い回廊、トイレ付の部屋を教会が新たに設けた豪華施設である。部屋は4人部屋で、とても清潔でトイレが付いている。部屋に入るとベッドのサイドテーブルに家族や孫の写真が大切に飾られてある。

     

    今日も一人の老人が入所した。娘と娘婿は長時間シスターに「父をよろしく」と頼んだ末、泣きながら父を残して去って行った。父は娘たちに「ワシは、大丈夫じゃから」と何度も説得していた。聞いてみると娘が病気がちで父親の面倒を見られなくなり、父が娘を思い自ら望んでこの施設に入ることを決めたのだという。

     

    「親子愛とはこういうものだな、ポルトガルでは老人問題に教会が深く関わっているんだな」と感動を覚え印象的な取材だった。「文盲の人が多いから教育後進国」なぞと、我々日本人はうがった考え方をしてはいけない。この施設と家族愛こそ、今の日本が学ぶべき本当の教育ではないだろうか。

     

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