No.9 Porto

2016.12.15 Thursday 09:20
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    ポルトガルの窓から日本が見える

     

    筆者の吉田千津子、カメラマンの奥村森、コピーライターの春子、

    3人でポルトガル42日間の旅、ポルトガルを通して日本を考察する

     

    文:吉田千津子 写真:奥村森

     

     

    ポルトのワイン事情

     

    Wine boat of Douro river ドウロ河のワイン運搬舟

    Wine boat of Douro river ドウロ河のワイン運搬舟

     

    アヴェイロからアウト・エストラーダ(高速道路)で1時間足らず、ポルトガル第2の都市ポルトに着く。ポルトはドウロ河沿いに開けたポルトガルの産業中心地である。ドウロ河には3つの橋が架かっているが、その中のひとつルイス一世橋を渡って対岸の町、ヴィラ・ノーヴァ・デ・ガイヤへ行くことにする。

     

    ルイス一世橋は2段構造になっている。創設当初は上段が一般者の通行、下段はワイン工場や関連企業の通行路となっていたが、今は一般通行路として上下段とも使用している。この橋の設計者はパリ・エッフェル塔で有名なエッフェル一門のベルギー人とのこと。

     

    ヴィラ・ノーヴァ・デ・ガイアには、数10社のワイン会社のカヴェ(酒蔵)があり、日本でポピュラーなポルト・ワインも貯蔵されている。かつてはワイン生産の本拠地だったこの周辺も、現在ではドウロ河上流の村、ピニョンに移した会社が多い。一般観光客にワインを普及するためのショールームやワインを寝かせる酒蔵として活用しているので、いまだに「ワインの町」という風情を残し営業拠点として現役を保っている。

     

    私たちが取材をしたワイン会社「オズボーン」は、1772年に設立されたスペイン人のオーナーの会社だ。可愛い栗色の髪の女の子、ロザリアが私たちを案内してくれた。薄暗く音ひとつしないひんやりとしたワイン蔵の中には、大きな樽が無数に横たわっていた。大きいものは直径5メートル以上もあるだろうか。ワインは9種類のブドウを原料として最低3年は寝かせて出荷するのだそうだ。「6種類の赤ワインと3種類の白ワインを製造しています」とロザリアは童顔に笑みを浮かべて丁寧に説明してくれる。

     

    ポルト・ワインの糖分は発酵を1日で止めたもの、2日で止めたもの、そのまま置いたもので糖分のパーセンテージが変化する。1日で止めたものはスイート、2日はミディアム、そのままのものはドライになるというのだ。醗酵を止めるにはブランディーを加えればよい。ポルト・ワインは、長く置く程まろやかで色が透明なワインになるそうだ。

     

    この蔵での年代ものは20年前に貯蔵したものだと言う。試飲も沢山させてもらった。いろいろ飲みすぎて最後にはどれがどれか判らなくなり、奥村さんと春子は顔を真っ赤にしながらもロザリアの好意に応えようと必死に飲んでいる。ところでポルトガル特産のポルト・ワインといっても、やたら外資系の会社が目立つ。これは、ちょっと寂しい話だ。

     

     

    ポルト百景

     

    Wedding ceremony 結婚式

    Wedding ceremony 結婚式

     

    今日10月5日は、ポルトガル共和国制宣言記念日で祭日。朝は晴れていたのに、あっという間に大雨、そうかと思うと雲が切れて明るくなる。これが典型的なポルトガルの天候。雨があがったので、対岸にある「ノッサ・セーラ・ド・ピラール修道院」の展望台にタクシーで乗りつける。380エスクード。

     

    少々霞んではいたが、ドウロ河にかかるルイス一世橋と対岸のポルト市街が美しい。180度のパノラマ風景で一望することが出来た。ポルトは、ポルトガルという国名の発祥の地でもある。今のポルト市街を「ポルトゥス」、対岸のヴィラ・ノーヴァ・デ・ガイアを「カーレ」と呼び、「ポルトゥカーレ」がポルトガルという名称になったと言い伝えられている。

     

    「昨日取材したワイン蔵の家並みを高台から撮影したい」という奥村さんの要望もあって、石畳の坂道を3人でドンドン登る。しかし、どこまで登っても全貌を見渡すことは出来ず諦める。帰り道、ワイン蔵とおぼしき広い屋根の上に2〜3匹の猫がノンビリ昼寝をしている。その脇には、ビニールで作った簡易猫小屋がある。

     

    道路ぞいの柱に紐を渡し、15歳位の女の子が洗濯物を丁寧に干していた。両親は共働きで多忙、彼女が兄弟の面倒や家事を一切きりもりしているのだという。なんだかテレビドラマ「おしん」のシーンの一場面を見ているようだ。

     

    坂道を下りきると、あのルイス一世橋、歩道は人ひとりがやっと通れる幅しかない。遠くから見るこの橋は、のどかなものだが、見るのと現実は大違い。風はビュンビュンと吹きまくり鉄橋から振り落とされそうになるほどの激しさだ。

     

    橋をポルト側に渡りきると幅の広い急な階段があり、両側の家の窓から窓へと干し紐が結ばれ、そこに干された洗濯物がパタパタとはためいている。突然、わたしの脳裏に「ポルトガルの洗濯女」の歌が流れた。左右に小さな家々がひしめき、子供たちが私たちにお金をくれとせがむが無視して階段を登り続ける。

     

    すると、数人の子供達が日本とまったく同じコマを回して遊んでいた。ポルトガルではコマを「ピァン」と言うのだと子供の1人が教えてくれた。コマは貧しい子の遊び道具だったのかなあ、と考えたりもしたが素朴で無心に遊ぶ子供達を見ると心うたれるものがある。

     

    コマは、ポルトガルから日本に渡って来たものか、日本からポルトガルにもたらされたものかは判らないが、歴史の因果を感じさせられた。階段を登りつめるとカテドラル前の道に出る。カテドラルは高台にそびえ立ち、そこから下町の生活が手に取るように見える。

     

    3匹の犬がダンゴ状に走るさま、窓から母子がのぞく姿、ごみバケツにリサイクルビンを満杯にしては緑色の宇宙船型をした大きな集積容器に何度も繰り返し運び入れるおばちゃん、ハンティングをかぶった5〜6人のおじさんたちの道のど真ん中での討論、そうかと思えばボーっと椅子に座っているおじいさんもいる。両手に山ほどの荷物を持ったおばさんは、近くの露店で買ったのだろうか、オレンジがカゴから溢れんばかりに顔をのぞかせている。この地域の生活の匂いがして長いこと眺めていても飽きることはない。

     

    そうこうしていると突然、大粒の雨がまたしても降ってきた。ポルトガルの天候はラテン気質そのものだ。ザーと降ってパット止む、キツネの嫁入りを一日に何回も繰り返している。仕方なく教会の中へ雨宿りする。中では結婚式の真最中、単調なカトリックの賛美歌が流れる。雨のために結婚式に無縁の人達がゾロゾロと参列、広いカテドラルの低い石柱に銅像のように座っている。私もそのなかの1人。

     

    長く座っていると底冷えがしてなかなか厳しい。奥村さんは、ポルトガルの結婚式を撮影したいと言い出す。式が終わって新郎新婦が外に出て来るまで待つと言うのだ。結局このセレモニーは、なんと11時から午後の1時まで2時間続いたのである。

     

    新郎新婦がカテドラルから出る頃には、雨も止み青空が広がっていた。奥村さんは、ずっと粘り撮影開始。新郎26歳、新婦27歳のカップル。2人は、この近郷の出身でポルトで知り合い結婚、敬虔なカトリック信徒ということで40人もの司祭を招き、それぞれが祝辞を述べたので2時間もかかってしまったと言う。きっと、名門家族の出でもあったのだろう。

     

    外では結婚式の記念写真撮影が始まった。カメラマンは女性、日本ではもうアンティークに属すると思われる上からのぞく二眼レフカメラでのんびりと撮影している。一方、奥村さんはニコン片手にチョコマカと動き回り、カメラウーマンよりも前にシャシャリ出てパチパチと写真を撮りまくる。カメラウーマンの影がうすくなり、どちらが撮影しているのか判らない。

     

    奥村さんが前に立つと、200人もの人が一斉にニッコリと笑うのがおもしろい。カメラウーマンもぜんぜん気にする風もなく、奥村さんが撮影するあいだ待っていてくれる。何とおおらかな。「やっぱりポルトガル人は気が長く人がいい」。日本では考えられないことだ。

     

    日本なら、縁もゆかりもない何処の馬の骨だかわからない奴が、突然撮影に乱入し邪魔をしたら絶対に嫌な顔をされること間違いなし。おまけに奥村さんは調子にのって、新婦と腕を組んで記念写真のモデルにまでなる始末、ここまでくれば見上げた度胸だ。この幸運で、昨日から雨で写真を撮れなくてクサッテいた奥村さんは急に元気になり、満足な笑みを浮かべた。

     

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