No.6 Alcobaca,Serra de Alcobaca

2016.12.14 Wednesday 07:39
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    ポルトガルの窓から日本が見える

     

    筆者の吉田千津子、カメラマンの奥村森、コピーライターの春子、

    3人でポルトガル42日間の旅、ポルトガルを通して日本を考察する

     

    文:吉田千津子 写真:奥村森

     

     

    アルコバッサの犬

     

    Dogs 道路を横断する犬たち

    Dogs 道路を横断する犬たち

     

    アルコバッサに滞在して2日目、今日はレストラン「フレイ・ベルナルド」(ベルナル僧)でフランゴ・ナ・プカラという蛸壺の形をした茶色の素焼きの器に入ったトマトとオリーブ味のトリの煮込みを食べることになった。ホテルの女主人から「アルコバッサに来たら、絶対にこれをたべなきゃ」と美味しい郷土料理情報を仕入れていたからである。サンタ・マリア修道院脇の路地を入った所に、そのレストランはあった。見るからに歴史を感じさせる造りのレストラン、天井も高さ5メートルはゆうにあろうか、とにかく立派な建物だ。

     

    フランゴ・ナ・プカラは、注文してかなり経ってからウェイターがうやうやしくテーブルに運んできた。大きな皿に大きなぶつ切りのトリが3個ボンと乗せられ、それにご飯と野菜、フライドポテトが皿から溢れんばかり、味はマイルドでさっぱりして美味しい。この町の料理は全般的に上品でポルトガルの京都味といったところか。

     

    私たちが日本のレストラン雑誌から依頼された原稿締め切り日が迫っているというのに春子は焦る気配もない。食事が終わって一段落したので「原稿どうなっている」と、しびれをきらした奥村さんが尋ねる。「今晩までに仕上げるように」、普段もの静かな奥村さんにしては、きつい口調で春子に指示。それもそのはず、彼が出国する前に取ってきた仕事なので責任を感じているのだ。

     

    ところが何度書き直させてもダメ、コピーライターだというのに国語の基本もまるでなっていない、とうとう奥村さんが代筆することとなる。春子は、ポルトガル取材旅行計画に積極的な参加意思を示し、これまで彼女が書いた制作物などの実績を確認した上で同行を認めた経緯がある。奥村さんは、カメラマンとライターを兼ねてすることを決意、春子は不満顔で「日本にいればワープロも資料もあるから書けるのに」と愚痴をこぼす始末。

     

    日中、町をウロウロ探索したが、面白い被写体に出会うことはなかった。夕食を終えてサンタ・マリア修道院前のロータリーにさしかかった時、ゾロゾロと何やら列をなして歩くものがいる。よーく目をこらすと大、中、小、茶、黒、白、ぶち、101匹ワンチャン大行進よろしく7匹の犬が一列になって修道院前の道路をまさに横断しようとしている。

     

    ビュンビュン車が走るロータリーなので、この犬たちがひかれはしかいかとヒヤヒヤしながら見ていると、中央の芝生の上で一旦ピタッと全員が止まりトラックや車をやりすごす。そして、おもむろに車の来ない時をみはからって横断歩道を行儀よく渡るのだ。そういえば、ポルトガル人の乱暴な運転マナーにもかかわらず、これまで一度も車にひかれて死んでいる犬を見たことがなかった。

     

    犬といえばペニッシュの港にいた黒い異常に痩せこけたラブラドールのような品の良い顔つきの子犬を思い出す。私がその犬に視線を向けると、前足を車にひかれたのだろうか、ブラブラとさせながらつぶらな瞳でこちらを見つめ「何かもらえるのではないか」と私に懇願するように近寄ってくるのだ。

     

    あいにく食べ物の持ち合わせもない上、何か買い与えようにも店はシーズンオフで何処も閉まっている。じっと見ているのが辛くなり、奥村さんに目を向けると高い堤防の上で撮影に余念がない。私も春子と堤防に上がってみる。犬はここまでは上がれないと諦めたらしく、ヨロヨロと通りの方へ帰って行った。

     

    私は痛みと悲しみを感じ「その後、どうしているのだろうか」と気になっていたが、帰りぎわに人の去った屋台の隙間に、その犬はチョコンと座っていた。きっと彼の住みかに違いない。雨露ぐらいはしのげるだろうが、これから大西洋の冷たい風が吹き込んでくる。冬ともなれば一層寒さは厳しい。私は。後ろ髪を引かれる思いで、その場を去った。ポルトガルの捨て犬はボロッチーが賢さと哀愁を感じる。それに比べ、人間は身なりは立派だが中身は怪しい。困ったものだ。

     

     

    ポルトガル生活事情

     

    Meadow in Serradealcobaca  セラ・アルコバッサの牧場

    Meadow in Serradealcobaca  セラ・アルコバッサの牧場

     

    言い忘れていたが、カルダス・ダ・ライーニャからアルコバッサへ行く途中にう村を通った。セラとはポルトガル語で丘と言う意味だ、その言葉どおりセラ・アルコバッサは丘の中腹にあった。家々がポコッポコッと点在する過疎の村、グニャグニャ道で急停車。そこは一軒の農家前、1台の旧式トラクターを素朴で澄んだ目をした20歳位の青年が整備、その脇でもう1人、前歯が2本しかないおじいさんが青年と話し込んでいた。

     

    おじいさんは74歳で「わしの母親は100歳と5ヶ月まで生きたんじゃ、すごいじゃろう」と得意満面、そして今は年金暮しで毎月、2万エスクード(2万円足らず)貰っていると話してくれた。おじいさんのお喋りは際限なく続く、余り相手ばかりもしていられない。この家の主人に挨拶すると「フィゲレイドです」と名乗った。

     

    フィゲレイド家は、夫妻と2人の息子、そして、おばあちゃんの5人家族である。おばあちゃんは、黒装束で身をかため椅子に座り、皆の動きを観察している。おばあちゃんはポルトガル女の典型、丸々として元気そのもの。「ポルトガルの田舎でも都会に行きたがる若者が増えて過疎化が進み、日本と同じ悩みを抱えている」と彼女は語る。幸運なことに、2人の息子は田舎に残り両親と一緒に農業をしたいと望んでいるようだ。

     

    裏庭は足の踏み場もないほど牛や馬の糞でいっぱい、スゴイ臭い、おまけに蝿はブンブンと飛び回る始末。母屋前の庭には、ニワトリと2匹の黒猫が仲よく一緒に寝そべっている。猫はネズミを取るからと重宝がられ、藪の中や庭など、そこいらじゅうに徘徊している。

     

    ポルトガルの犬にしては珍しく、綱に繋がれた2匹の犬が見知らぬ東洋人に向かって吠えまくる。庭に踏み入れると靴が糞まみれになるほどのぬかるみ、それでも好奇心から奥の牛舎を覗くと真っ暗な小屋に黄色い牛が一頭、餌を食べている。2本歯のおじいさんは、この牛を買おうと見に来たのだ。

     

    彼は「この牛は年をとっておるのでダメじゃ」と小声で私に耳打ちをした。そして間もなく主人に別れを告げて去っていった。私たちも失礼することにした。私が「田舎暮らしは泥まみれ、しかも臭くて大変だわ」と呟くと、「これが本当の人間の生活さ」と奥村さんは言い放った。

     

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